大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和29年(ワ)8654号 判決

原告 横井英樹 外一名

被告 株式会社白木屋

当事者参加人 鏡山忠男 外八名

主文

昭和二十九年四月二日東京都中央区日本橋浜町一丁目二番地中央クラブ三階において開催された被告会社第七十期定時株主総会における

1、第七十期営業報告書、財産目録、貸借対照表、損益計算書ならびに利益金処分案を承認する

2、渡辺建、岡清蔵、江川忠一、石渡泰三郎、鈴木政一、中田専二、桜井鉄臣、黒川健亮、鏡山忠夫を各取締役に、岡本兵太郎、望月富雄を各監査役に選任する

3、定款第二条第一項第四号中「度量衡器及計量器」とあるを「計量器」と改め、第五条中「四百万株」とあるを「一千六百万株」と改め、第六条竝に附則第三十六条を削除し、新たに第六条として「当会社の株主は新株引受権を有する但し発行する株式の一部につき取締役会の決議により当会社の役員及び従業員に対し新株引受権を与え又は募集することができる、引受のない株式の募集並びに端株の処理については取締役会の定めるところによる」と規定する

との決議を取り消す。

訴訟費用中参加に困つて生じた部分は参加人等の負担とし、その余は被告の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は主文第一項同旨の判決を求め、その請求の原因として、つぎのとおり述べた。

「一、被告会社(以下白木屋と称する。)は百貨店業その他の事業を営むことを目的とする発行済株式の総数四百万株の株式会社で、原告等はその株主である。

二、白木屋は、昭和二十九年三月五日その取締役会において、同年三月三十一日午前十時半より東京都中央区日本橋浜町一丁目二番地中央クラブにおいて第七十期定時株主総会を開催し、右総会で別紙〈省略〉記載の議案を附議することを決議し、当時の代表取締役たる参加人鏡山が各株主にその旨の招集通知を発した。而して、右総会は同日定刻中央クラブにおいて、参加人鏡山が議長となつて開催されたが、出席一株主より出席株式数および提出委任状の点検を求める緊急動議が提出された結果、議場は一時騒然となつたため、議長は休憩を宣してこれを点検した。休憩後点検の結果に関して論議百出し、議事の進行が著しく停滞したため、議長は全出席株主同意の下に、点検のための委員を選任してその調査をなさしめたが、右調査は短時間内にこれを終了することが不可能であることが明白となつたので、全出席株主の賛成決議で右総会を翌々四月二日に延期し、同日午前十時より千代田区丸の内三丁目十四番地東京会館において開催することとし、当日はそのまま散会した。

三、原告等は、右決議により定められた延会の会場である東京会館に赴いたところ、いかなる理由か、参加人鏡山の外白木屋の取締役等はいずれも定刻に至るも右会場に姿を見せなかつたが、出席株式数は発行済株式総数四百万株に対し二百十一万四百十六株に達したので、出席株主訴外中沢丑之助が議長となつて開会を宣し、前記議案を順次附議した結果、第一号議案は可決され、第二号議案については取締役として原告両名外七名、監査役として訴外両角潤外一名が選任され、第三号議案は否決された。

四、しかるに、参加人鏡山等は同日やむを得ない事由によつて株主総会延会々場を前記東京会館より中央クラブに変更したと称し、同人等一派の株主を右中央クラブに集合せしめて、同所で白木屋の第七十期定時株主総会を開催し、前記議案を審議して主文第一項記載のような決議をした。

五、しかしながら、四月二日中央クラブにおける右株主総会の決議は、左のような瑕疵があるので取り消されるべきものである。

(1)  右株主総会はその招集手続が違法である。

前記の如く、三月三十一日の総会決議によつて、同日の総会は四月二日に延期され、同日午前十時より東京会館で開催することに決められたのであるから、その総会は決議どおり、東京会館で開催されるべきである。もし同所で開催することが不可能である場合は、右総会を一応流会として、改めて総会招集の手続をなすべきで、これをしないで他の場所で開くことは違法である。而して、四月二日中央クラブで総会を開催する旨の招集状は全然発せられていないから、結局右総会は招集手続なくして開催された違法があるものというべきである。

(2)  右株主総会の決議方法は法令および定款に違反する。

(イ) 右決議には議決の参加し得ない株主がこれに参加している。参加人鏡山等一派のものは、右株主総会開催に先だち、白木屋の多数派株主である原告等に白木屋の経営権が移ることをおそれ、これを阻止せんとして、白木屋の計算において鏡山名議で七十七万四千九百株の白木屋株式を取得した。原告等は右事実を探知し、右は商法第二百十条および第四百八十九条第二号の自己株式取得の禁止規定にふれるものとして東京地方裁判所に対し右七十七万四千九百株の自己株式の議決権停止の仮処分を申請したところ、右仮処分手続における相手方審訊によつて原告等より右議決権停止の仮処分の申請がなされた事実を知つた鏡山等は極度に狼狽し、白木屋の株式名義書換停止期間(昭和二十九年二月一日より六十日間)中であるにもかゝわらず、右総会開催予定日である同年三月三十一日の前夜、徹夜で右七十七万四千九百株の株式の名義を鏡山より訴外中山満之なるものに書き換えて、仮処分決定の実効を回避せんと企てた。なおその他にも前同様名義書換停止期間中中山満之名義に書き換えた株が九万三千株あり、中山満之は右中央クラブにおける四月二日の総会に右合計八十六万七千九百株をもつて議決に参加している。

元来株式名義書換停止の制度は会社の事務整理上認められ来つた制度であるが、他面より見れば、株主に不利益を生ずるおそれがあつたので、商法はこれについて種々の制限規定を設けているのである。右規定の精神より考慮すれば、商法は会社の恣意で名義書換停止期間中に名義書換をすることを禁止しているものと解すべきである。また右期間中に書換をしないことは多年の慣行を基礎とした慣習法であつて、証券業界も名義書換停止期間の初日の前日を株主の権利行使の基準日と同一に扱つて増資新株の申込権者、利益配当金の受領権者決定等の処理をなしている。

また、白木屋定款第十条は「当会社は毎年二月一日及び八月一日から各定時総会終結の日まで六十日を超えない期間株主名簿の記載の変更を停止する。」と規定し、「変更を停止することができる。」と規定していないが、これは会社も一般株主のために変更停止の義務を有することを規定したものである。

さらに、白木屋が右停止期間内に名義書換をしたのは、鏡山等にとつて都合のいゝものにだけであつて、その他の一般株主には名義書換の請求があつてもこれを拒絶している事実があるが、右は会社法の原則である株主平等の原則に反する。

(ロ) 右決議は総会における株主権の行使を妨げたまゝ成立した違法がある。

議長鏡山は右総会に出席した一株主訴外鎌田文雄等が発言せんとしたところ、その発言を封じたまゝ議決した。右は合議体たる株主総会の議決の原則を無視した違法のものである。

(3)  右総会は、その決議の方法が著しく不公正である。

前記(1) 、(2) 記載の、招集の手続ならびに決議の方法は、たとえこれが法令または定款に違反しないとしても、著しく不公正なものであつて、結局それらはすべて決議の方法が著しく不公正であることに帰するから、当然取り消さるべきものであることは明瞭である。

(4)  右総会の決議は商法第三百四十三条に違反する。

右総会議事録によれば、中央クラブにおける総会には二百九万三千六百六十五株を有する株主が出席したことになつているが、右総会において決議に附された第三号議案は定款の変更であるから、発行済株式の総数四百万株の過半数に当る株式を有する株主が出席する必要があるが、前記(2) (イ)記載の如く議決権を行使し得ない八十六万七千九百株を右出席株式数より控除すれば、その議決権を行使し得べき株式数は百二十二万五千七百六十五株となり、発行済株式総数の半数に達しないこととなる。したがつて右第三号議案に関する総会の決議は商法第三百四十三条に違反するものであるから取り消さるべきものである。

よつて右総会決議の取消を求めるため本訴に及んだ。」

被告訴訟代理人は、「原告等の請求を棄却する。」との判決を求め、答弁としてつぎのとおり述べた。

「原告等主張の請求原因事実中、

白木屋がその主張の如き会社であること、昭和二十九年三月三十一日午前十時半より中央クラブで白木屋の第七十期定時株主総会が開催され、その主張のような議案が附議されることとなつたがその主張のような経過で、右総会を四月二日に延期し、同日午前十時に東京会館で開く旨の決議がなされたこと、四月二日東京会館で行われるはずの右延会が同会館差支えのため中央クラブに変更されたこと、参加人鏡山外他の取締役が当日東京会館に赴かなかつたこと、同日中央クラブにおいて白木屋の右総会延会が開催され原告主張の如き決議がなされたことは認めるが、その他の事実は全部否認する。」

参加人等訴訟代理人は「原告等の請求を棄却する。」との判決を求め、その原因としてつぎのとおり述べた。

「一、白木屋は原告主張のような株式会社であり、参加人等はいずれもその株主である。

二、白木屋は、原告主張のように昭和二十九年三月三十一日午前十時半中央クラブにおいて第七十期定時株主総会を開催し、原告主張のような議案を審議することになつたが、当日は原告主張のような事情で議事に入らず、翌々日なる四月二日午前十時より東京会館で右総会の延会を開催することを決議し、当日はそのまゝ散会した。

三、そこで白木屋は、ただちに東京会館に赴いて総会会場として同会館の二階の数室を借り受ける契約をし会場設営についての諸般の準備にあたり、これを完了したところ、同会館は翌四月一日朝に至り、何故か突如として、右会場の使用を拒絶し解約の申入れをして来たので、白木屋は事情を具して再三懇請したが遂に容れられなかつたので、やむを得ずこれを承諾し、期日も迫つているので急遽これに代るべき他の場所を探した結果、前記中央クラブ三階ダンスホールを借用することができたので、会場を右中央クラブに変更してそこで午前十時半より開催することとし、四月二日の主なる朝刊紙すなわち朝日、毎日、読売、日本経済各紙に右会場ならびに開催時刻変更の旨を公告すると共に、同日早朝より東京会館玄関前に右変更の旨を掲示し、且つ同会館前に大型バス三台を配置し、係員を派して、会場変更のことを知らないで来た株主等を中央クラブに運んだ。

四、かくして四月二日午前十時半、前記中央クラブ三階において参加人鏡山議長の下に三月三十一日の株主総会の延会が開催された。開会に当り鏡山議長は前記会場変更のやむなきに至つた事情を報告し、全出席株主の承認を得た。而して当日の出席株数は発行済株式総数四百万株のうち二百九万三千六百六十五株で法定の定足数に達したので議事に入り、全議案が原案どおり可決された。その結果参加人中岡本、望月は各監査役に、その余の参加人ならびに訴外江川忠一、同鈴木政一は各取締役に選任された。

五、おもうに、三月三十一日と四月二日との両日にわたつて鏡山議長の下に継続してなされた株主総会は前後一体をなす一つの総会であつて、その間の時間的間隙は一日の中に終了した総会の途中における休憩時間にも比すべきものである。而して株主総会会場として決定された場所において総会を開くことが不可抗力により不能となつた場合には議長――または議長となるべきもの――以下同じ――は株主を他の場所に誘導して総会を開くことができるのであつて、かゝる場合流会にしなければならぬという根拠はない。流会にすれば改めて招集通知をするなど多額の費用を要するのであるから、議長としてはむしろかゝる場合株主を他の適当な場所に誘導して総会を開く職責があるというべきである。たゞこの場合議長は何所にでも勝手な場所を定めて誘導し得るというわけではなく、株主の権利の行使に支障がないと客観的常識的に認められる場所を選ばなければならないのである。この場合誘導先との距離が問題となるのではなく、要するに株主の権利の行使に不便不利を与えるかどうかにより議長の誘導の適否を判断すべきである。株主もまたその権利の行使に特別の支障なき限りかゝる場合議長の誘導に従うべき義務を負うものというべきである。

本件の場合は前期の如く、株主等が中央クラブにおける株主総会に参加し議決権を行使するについて、その議決権の行使を害することのないよう万全の措置を講じた上で株主等を中央クラブに誘導したのであり、且つ右会場変更について全出席株主の承認を得たのであるからその会場変更は適法なものである。

六、原告等の被告に対する請求原因事実中、白木屋の株式名議書換停止期間が昭和二十九年二月一日より株主総会の前日たる三月三十日までであつたこと、右停止期間中に株主の請求により原告等主張の如く名義書換をしたことは認めるが、その他の事実は全部否認する。

名義書換停止期間中でも株主の求めにより会社が任意に名義書換をすることは妨げない。また白木屋が右書換停止期間中株主の求めにより書換をしたのはすべて公平に行われたもので、株主平等の原則に反する如きことは全然ない。したがつて右停止期間中に名義書換を受けた株主が議決に参加しても何等違法の点はなく、したがつてまた商法第三百四十三条に違反することもない。

七、以上の如く、白木屋の第七十期定時株主総会の決議は中央クラブにおいて有効に成立し、何等の瑕疵なきものである。しかるに、本訴において原告等は右決義に瑕疵ありとして右決議取消の請求をしているが、この訴訟において白木屋が敗訴せんか、その判決は参加人等にも効力を及ぼし、参加人等はその地位を失うこととなるので、民事訴訟法第七十一条前段により、当事者として本訴訟に参加し、原告等の請求棄却の判決を求める次第である。」

〈立証省略〉

理由

被告会社(以下白木屋と称する。)が原告等主張のような株式会社であること、昭和二十九年三月三十一日中央クラブにおいて原告等主張のような議案を審議するため白木屋の第七十期定時株主総会が開催されたが、原告等主張のような経過で、右総会を延期し、四月二日午前十時東京会館において開催することを決議し、当日はそのまゝ散会したこと、ならびに、四月二日午前十時半より前記中央クラブにおいて、白木屋第七十期定時株主総会が開催され、右総会で主文第一項記載のような決議がなされたことについては当事者間に争なく、成立に争のない甲第十八号証によれば原告等がいずれも白木屋の株主であることを認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はない。

右事実によれば、四月二日午前十時より中央クラブにおいて開催された白木屋第七十期定時株主総会なるものは、三月三十一日の中央クラブにおける白木屋株主総会とは全然関係のない別個独立の総会であるか、あるいは三月三十一日の総会決議により四月二日に延期された総会の、開催時間ならびに開催場所の変更されたものかのいずれかであると見るべきところ、参加人等はその後者であつて、しかもその変更は適法であり、三月三十一日と四月二日の両日にわたつて中央クラブにおいて開催された総会は前後一体をなす一つの総会であり、その間の時間的間隙は一日の中に終了した総会における体憩時間にも比すべきものであると主張する。そこで先ずその変更が果して適法であるかどうかについて考えて見る。

株主総会において総会の延期または続行の決議をなす場合においては、その開催の日時、場所をも定めてこれをなすを要することは、総会を招集する場合に、招集権者が総会開催の日時、場所を定めて招集通知をなすを要するのと異なるところはなく、その場合、延会または継続会開催の日時、場所を定めるものは総会招集権者ではなく、総会それ自身であることはいうまでもないことである。而して、総会を招集する場合、招集権者が総会開催の日時、場所を定めて各株主に招集通知を発した後においても、招集権者は、その期日到来前には、総会招集の場合におけると同じ手続をとることにより、右総会招集期日または招集場所を変更し、あるいは招集の撤回をすることができるが、一旦総会が開催された場合においては、もはや招集権者は総会の延期または続行等を決し得る権限はなく、これをなし得るものは総会そのものであることまたいうまでもないところである。(商法第二百四十三条参照)そして、総会決議によつて総会の延期または続行が決せられた場合においては招集権者といえども、右総会決議で定められた延会または継続会の開催せらるべき日時および場所を変更することはできないものといわねばならない。蓋し、この場合においては、総会は既に開催されて総会の意思が表明されたのであり、而して総会の意思は総会招集権者の意思に従属するものではないからである。

本件においては、前記のとおり、三月三十一日の総会決議により四月二日の延会を開催すべき場所は東京会館と決せられたのであるから、右延会はかならず東京会館において開催されるべきで、右場所で延会を開き、改めて延期または続行の決議をする場合以外は、招集権者といえどもこれを変更することを得ずその変更は違法である。(東京会館において同日の総会開催場所を中央クラブと変更する旨の総会決議がなされたとの主張、立証はない。)三月三十一日の総会決議どおり四月二日の株主総会が東京会館で開催された場合は、それは三月三十一日の総会と前後一体をなす一つの総会であつて、その時間的間隙は一日の中に終了した総会における休憩時間にも比すべきものであることは、まさに参加人等の主張するとおりである。しかしながら本件においては四月二日の総会は東京会館以外の場所で開催されたのであるから右総会は三月三十一日の株主総会の延会であるとすれば会場を変更したものと見るの外なく延会でないとすればこれとは同一性のない全然別個の総会であるといわざるを得ない。しかも、会場の変更が不適法であることは前記の通りであるから、右参加人主張の場合に該当しないことは明白である。東京会館で右延会を開催することが、参加人等の主張するように、不可抗力によつて不能となつた場合には、右延会は開催不能として流会とせざるを得ず、改めて総会招集の手続を経たうえで、これを招集せざるを得ないことまさに原告等の主張するとおりである。参加人等はこのような場合には議長は株主を他の適当な場所に誘導して総会を開くことができ、むしろ誘導すべき職責があり株主もその権利の行使に特別の支障のないかぎり、右議長の誘導にしたがうべき義務を負うと主張する。しかしながら、議長たると他の何人たるとを問わず、そのような権限も持たず、また職責もなくまた株主にはそのような誘導に従うべき義務もない。

参加人等はさらに株主等が中央クラブにおける株主総会に参加するについて、その議決権の行使を害することのないよう、その主張のような万全の措置を講じたうえで株主等を中央クラブに誘導し、且つ、右会場変更について全出席株主の承認を得たのであるから、その会場変更は適法であると主張する。しかしながら、前説明のとおり、株主総会の決議によるほかは、右会場を変更することはできないのであるから、たとえ参加人等主張のような措置を講じたとしても、右会場変更が適法となることはなく、また全出席株主の事後承認を得ても、右会場変更の違法性が治癒されることもない。株式会社においては、いわゆる全員出席総会(招集手続を欠くが株主全員が出席してなす総会)が、有限会社におけるがごとく(有限会社法第三十八条)適法であるかどうかについては疑問があるが、たとえその全員出席総会を適法であると解しても、本件においては、四月二日中央クラブにおける株主総会に株主全員が出席したとの主張立証はないから(参加人等自身発行済株式総数四百万株のうち二百九万三千六百六十五株の株主出席したと主張する。)当日出席した株主の全員が右会場変更に承認を与える旨の決議をしても、右承認決議は何等の効力もなく、これにより会場変更の違法性が治癒されることもない。また右四月二日の中央クラブにおける総会は同日東京会館で開催されるべき三月三十一日の総会の延会の会場の変更されたものではなく、三月三十一日の総会とは独立した別個の総会であると見る場合は、全員が出席したのではない本件の場合においては、当然総会招集手続の欠缺が問題となつて来るのである。

以上説明のとおり四月二日午前十時より東京会館において開催せらるべき白木屋の第七十期定時株主総会の会場を右東京会館より中央クラブに変更したことは違法であり、而して他に同日中央クラブで白木屋株主総会を開催するについての適法な招集手続のなされていなかつたことは弁論の全趣旨によりこれを認め得るから、同日同所において開催された白木屋株主総会は結局招集手続なくして開催された違法があるものといわざるを得ない。

よつて他の点を判断するまでもなく、右総会の招集手続が法令に違反することを理由としてその総会においてなされた決議の取消を求める原告等の本訴請求を理由あるものとして認容し訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十四条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 入江一郎 唐松寛 高林克己)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例